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JPドメイン名紛争処理JP2007-0008裁定書

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って、これが公開される裁定文か。
何かの参考になれば幸いです。


裁 定

事件番号:JP2007-0008

申立人:
(名称)モジラ・ファウンデーション
代理人:弁護士 東 澤 紀 子
代理人:弁護士 久 保 啓 一 朗

登録者:
(名称)インフォトランス有限会社
代表者:代表取締役 千田丈慈

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

申立人の請求を棄却する。

2 ドメイン名

紛争に係るドメイン名は「firefox.jp」である。

3 手続の経緯

別記のとおりである。

4 当事者の主張

a 申立人

申立人は、平成19年10月17日受付の申立書において、JPドメイン名紛争処理方針に基づき、以下のように主張した。

(1)登録者の本件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似している。

ア)本件ドメイン名firefox.jpは、登録者が2004年2月18日に登録したものである。

イ)他方、申立人は、firefoxという名称のウェブブラウザ・ソフトウエアを開発し、公開してきた。これは2004年2月9日に技術プレビュー版を公開し(甲9の1~2)、2004年11月に正式版を公開した(甲10)。正式版については、公開直後に810万件のダウンロード件数を突破するなどの反響があり(甲10)、インターネット・エクスプローラーに次ぐウェブブラウザとしてのシェアを占めている(甲11の1~4)。

ウ)また申立人は、次の登録商標を有している(甲15)。

商  標 FIREFOX
登録番号 4929354
登 録 日 2006年2月17日
出 願 日 2005年1月28日
指定商品 第9、41、42類

エ)以上のように申立人はfirefoxという商標に対して正当な利益を有している。

オ)これに対して本件ドメイン名は、その要部であるfirefoxが申立人の正当な利益を有する商標firefoxと同一である。

(2)登録者は本件ドメイン名について正当な利益を有していない。

ア)登録者は法人登記がなく、実態のない会社であり、「FIREFOX」について商標登録出願を行っていない。

イ)登録者は、ドメイン名登録後、ウェブページを作成しているものの、何のウェブページであるのか全く分からない、実質的には機能していないと推測されるようなウェブページであった(甲19)。

ウ)しかも、同ウェブページは、申立人が登録者に対して本件ドメイン名譲渡について話し合いを持ちかけた平成19年7月までは同じであったが、同年8月には、変更されていた(甲20)。変更されたウェブページは、更に何のウェブページであるのか分からず、「top」、「party」、「production」のメニューだけ機能しているものの(甲21~22)、DJであるスギウラムの紹介のウェブページになっており、「FIREFOX」とは一切の関係が認められない。

エ)トップページの著作権表示部分の「flyer.to」をクリックすると、「株式会社フライヤーティーオー」としてのウェブページに移動するが(甲23)、FIREFOXという表示はどこにもなく、Firefoxとは全く無関係である。

オ)従って、登録者は本件ドメイン名に関する権利も正当な利益も有していない。

(3)本件ドメイン名は不正の目的で登録され、または使用されている。

ア)登録者は、本件ドメイン名を登録後、ウェブ上で実質的には使用しておらず、現実に本件ドメイン名を利用した事業も行っていない。かかるドメイン名の不使用の場合であっても、登録者の事情、状況等を判断して不正の目的を認めた先例がある(甲24~25。JP2001-0002事件、JP2006-0008事件)。

イ)本件において、登録者は、Mozilla Foundationがウェブブラウザとしての「Firefox 0.8」の技術プレビュー版を2004年2月9日にリリースした直後である同年2月18日に、本件ドメイン名の登録を行ったものである(甲1)。

なおMozilla Foundationは、ウェブブラウザの名称を「Firebird」にしていたが、別のオープンソースプロジェクトと名称が重なることから、2004年2月9日、「Firefox 0.8」のリリースと名称変更したことを大々的に発表した(甲9の1~2)。

ウ)登録者は、ドメイン名の登録以後、ドメイン名を実質的に使用した事実がないにもかかわらず、2007年3月1日に更新を行った(甲1)。

エ)Mozilla Foundationは、2004年2月9日の「Firefox 0.8」リリース後も、ウェブブラウザ「Firefox」の名称で何度も改良を重ねたソフトウェアを無償で提供しており、ウェブブラウザ「Firefox」は、日本におけるウェブブラウザのシェアが第2位、全世界的にも15.42パーセントを占めている(甲11の1~4、26~27。2007年4月現在)。インターネットの大手検索サイトにおいて「Firefox」で調べると、「Google」においては2億4800万件(甲28)、「Yahoo!JAPAN」においては2億3100万件のヒット数があり(甲29)、申立人のウェブブラウザ「Firefox」の案内がトップに出る。最早、「Firefox」という名称は、申立人が提供するウェブブラウザのことを意味することが広く認知されており、登録者がドメイン名を登録し保有し続ける理由は存しないと思料する。

オ)申立人は、本件申立前である2007年6月に、申立代理人を通じて登録者に対し、本件ドメイン名の移転を依頼する電子メールを送り(甲30)、登録者から話し合いをしたいとの返信を受領した(甲31)。然るに、申立人代理人が登録者に対し、具体的な話し合いの日時を提示する電子メールを送っているものの(甲32)、登録者からは何らの返信もない状態である。登録者が一度は本件ドメイン名の移転について話し合いをする連絡をしてきたことからすると、登録者が本件ドメイン名を保有し続けなければならない理由はなく、具体的な条件により、移転について応じる意図があったことが認められる。

カ)従って、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者

登録者は、平成19年12月3日受付の答弁書において、以下のように主張した。

(1)登録者の本件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似しているとの主張に対する反論

ア)は認める。新たなドメイン取得の際にFIREFOXという単語を選択したのは、個人的に好きなクリントイーストウッド主演の映画『ファイヤーフォックス』(1982年)に因る(乙第1号証)。

イ)は争う。

2003年7月に設立されたのは、モジラ・ファウンデーションであり、登録者が本件ドメイン名を取得した後の 2004年7月28日に設立されたのはMozilla Japanであり、また1998年当時のプロジェクト名称は「mozilla.org」であり、Firefoxではなく、本件ドメイン名とは無関係である。

申立人がウェブブラウザを「Firefox」という名称で2004年2月9日に技術プレビュー版を公開し、2004年11月に正式版を公開したことは認めるが、その証拠としてあげたスラッシュドットジャパンの記事に一番最初に付いたレスポンスは「ロシア語で考えるんだ(スコア:5,おもしろおかしい)」である。これはクリントイーストウッド主演の映画『ファイヤーフォックス』に登場する台詞であり、Mozilla FirebirdがMozilla Firefoxに改称する以前から「Firefoxと言えばアノ映画のMIG-31 FIREFOXだ」と周知されていた証拠に他ならない(甲第9号証の1)(乙第2号証)。

申立人がヨーロッパと中国で公式アフィリエイトを設立していることは、JPドメインである本件ドメイン名に影響しない。

申立人がホームページ(http://www.mozilla-japan.org/)でウェブブラウザ「Firefox」の紹介を行い、「Firefox」というと、申立人のウェブブラウザ製品であると広く認知されていることは争う。wiktionaryにおいて[firefox]は名詞で[Red panda]あるいは[Red Fox]の意であるとされ (乙第3号証の1)、固有名詞で申立人のウェブブラウザ製品であるとされている(乙第3号証の2)。いくつかの日本のオンライン英和辞書には記述が無い(乙第4号証の1~)。英辞郎 on the WEBには、申立人のウェブブラウザ製品とクリントイーストウッド主演の映画であるとされている(乙第5号証)。

1977年に発表されたクレイグ・トーマスのSF小説のタイトルも[Firefox]であり(乙第6号証の1)、この小説は1982年に映画化され、登録者はこの映画のファンであること(乙第1号証)、1983年に同小説の続編「FIREFOX DOWN」も発表されていること(乙第6号証の2)がその理由である。

ウ)については争う。登録者が本件ドメイン名を取得したのは2004年2月18日であり、出願の約一年前である(甲第1号証)。

(2)登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないとする申立人の主張に対する反論

ア)について、登録者が「FIREFOX」について商標登録出願を行っていないことは認め、その余の点は争う。

登録者は、1995年に東京法務局府中支局に法人登記を行った有限会社であり、 ゲーム、教育関連業界にクライアントを持つ、各種ITサポートを主な業務とする有限会社である(乙第7号証の1~2)。

申立人が郵送をした当時は事務所を移転した直後であり、その登録を行っていなかっただけのことが、「実態のない会社である」との誹りにつながるとは到底考えられない。電話番号がないことも、業務上、電話番号登録の必要性がないから登録していないだけである。

イ)について、登録者が本件ドメイン名を登録した後に作成したウェブページが実質的に機能していないとの点は争わないが、その余は争う。

登録者は本件ドメイン名を「j@firefox.jp」を始めとした複数のメールアドレスとしての使用を想定して取得していたため、ウェブページ作成の必要性が当面なかったからである。

ウ)について、本件ドメイン名譲渡についての話し合いを持ちかけた翌月に変更したとの主張については争う。登録者は本件ドメイン名で何度かウェブサイトを公開しており、WebArchiveから確認できる最も古い記録は2004年7月11日である(乙第8号証)。

その後も断続的にウェブサイトのアドレスとして利用しており、平成19年8月に変更したのは本件ドメイン名譲渡についての話し合いとはなんら関係が無い。

DJスギウラムの紹介ページになっており、「FIREFOX」とは一切の関係が認められないとの主張については争う。sugiurumn氏は世界的に著名なDJ(甲第21号証)ならびにトラックメイカーであり、Avex社他よりCDも発売されている(甲第22号証)。当時、登録者はsugiurumn氏のオフィシャルサイトリニューアルを請け負っており、本件ドメイン名のウェブサーバをその仮サイトに利用していた。

エ)は争う。登録者は、今回、ドメイン名を含んだタイトルのウェブページを立ち上げておかないと、ドメイン名を奪われるというルールを知るに至ったため、現在メールアドレスとして業務上にも使用しているため、急遽制作したからである。現在はhttp://flyer.to/内に firefox.jpの記述がある。

(3)登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されている、と申立人のなした意見に対する反論

ア)については争う。

登録者は本件ドメイン名を現実に取得時以来メールアドレスとして利用しており、そのことは、申立書に登録者のメールアドレスとして「j@firefox.jp」と記載されているとおり、申立人自身も認識している事実である。

イ)についても、争う。

ウ)についても、争う。登録者は、本件ドメイン名の登録後、主にメールアドレスとして利用しており (甲第31号証)、また、登録者は本件ドメイン名でウェブサイトを断続的に公開しており、WebArchiveから確認できる最も早い記録は2004年7月11日である(乙第8号証)。さらに2007年12月3日現在は本ドメイン紛争について報告するサイトとして公開しているのであり、本件ドメイン名を実質的に使用した事実がないわけではない。

エ)についても争う。ドメイン名は先願主義であり、市場シェアや知名度が高いからというだけで、ドメイン名移転の理由にならない。また、それほどに認知され各種検索サイトで上位に表示されるならば、申立人が本件ドメイン名に拘る理由は存しない。

オ)について、2回だけメールのやりとりがあったことは認めるが、その余は争う。登録者は本件ドメイン名をメールアドレスとして使用しており、保有し続けなければならないので、お断りする意図をもって連絡をしたものの、業務多忙のためその後の連絡ができずにいたが、本件ドメイン名紛争処理とは別の問題である。また登録者は本件ドメイン名を取得して以来、何度か複数の人物から最高11,000米ドルによる譲渡を持ちかけられているが、本件ドメイン名の取得は売却を意図したものではないので売却に応じていない。

(4)本件に関する登録者の意見

ア)本件ドメイン名は、登録者の代表者が個人的に好きなクリント・イーストウッド主演の映画『ファイヤーフォックス(原題:Firefox)』から着想を得て、その好きな単語をメールアドレスで使用したいとの理由から登録した。

イ)登録者は、本件ドメイン名を、j@firefox.jpをはじめとする複数のメールアドレスとして自ら、または他の複数のものに使用させており、このアドレスに対する送信者も含め、多数の人が利益を得ている。

ウ)本件ドメイン名の経済的価値は認めるが、JP ドメイン名紛争処理方針第4条に定められた要件のうち、「(ii) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと」および「(iii) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」のいずれにも該当しない。

エ)ドメイン名紛争処理方針の基本理念(=ミニマル・アプローチ)は、典型的なサイバースクワッティングの事案など、容易に判断を下し得るケースに限って申立人に救済を与えるものである。本件のように、典型的なサイバースクワッティングではない案件においては、正当な利益を有する当事者間の利益衡量に基づく判断が必要となるため、書面審理を原則とするドメイン名紛争処理手続には馴染まない。同紛争処理手続において本件のような事案を無理に扱おうとすると、誤った結論を導く危険性もあり、かえっ て同手続の信頼性を損なう結果となりかねない。

オ)登録者が本件ドメイン名をメールアドレスとして使用している事実は、紛争処理方針第4条「c. 登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることの証明」の「(iii) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとき」に該当するものである。

5 争点および事実認定

a 争点

規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

(2)登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

このうち本件では、(1)については実質的に争いがない。登録者は(1)イ)およびウ)について、それぞれ争うとしているが、それらは本件ドメイン名の要部であるfirefoxと同一の登録商標に申立人が商標権を有することに対して否定するものではないので、上記の要件(1)を否定するものではない。また、本件ドメイン名の要部であるfirefoxについて申立人が商標登録をしていることは、甲第15号証により明らかであるほか、firefoxが申立人の開発したウェブブラウザソフトとして著名であること、多数のインターネットユーザーに認識され利用されていることは、当パネルに顕著である。

これに対して(2)および(3)については争いがあるので、以下、検討する。

b 争点に対する判断

争点1:(2)登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

ア)申立人は、登録者が実態のない会社であること、ドメイン名の要部であるfirefoxについて商標登録出願を行っていないことを主張し、登録者は前者について争い、後者は認めている。登録者の提出した証拠(乙第7号証の1および2)によれば、登録者の法人登記はなされており、少なくとも全く実態がないと断定することはできない。

イ)登録者のウェブページについて、申立人は本件ドメイン名登録後に登録者が開設したウェブページを実質的に機能していないものと主張し、これは登録者も自認するところである。しかし、その後に公開されたページの内容は、DJ Sugiurumnの紹介ページとなっている(甲第20号証ないし第22号証)。このページの趣旨について、申立人はfirefoxと一切の関係が認められないとしているが、登録者はその当時sugiurmn氏のオフィシャルサイトリニューアルを請け負っており、本件ドメイン名のウェブサーバをその仮サイトに利用していたと主張している。この登録者の主張は、現在のDJ Sugiurmnの公式ページと見られるウェブサイト(http://sugiurumn.com/)のparty scheduleと題するページの2007年のページ(http://sugiurumn.com/party/index.php?m=2007)に記載されている内容および体裁と甲第20号証ないし第22号証のページとがかなりの部分で一致すること、またDJ Sugiurumnの公式ページに記載されているsupported by flyer.toとの表記部分にリンクされているページ(http://flyer.to)が本件登録者の代表者の作成しているものと見られることから、裏付けられる。

申立人は、JPドメイン名紛争処理方針第4条cに規定された「登録者がドメイン名に関する権利または正当な利益を有していることの証明」のための事由、すなわち(i)「・・・何ら不正の目的を有することなく・・・当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき」あるいは(ii)当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたとき」に対するいわば反証として、登録者の開設したウェブサイトがfirefoxと無関係であることを主張しているものと解される。しかし、同条c(iii)は、「登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとき」との事由を挙げ、これに該当する場合にも登録者が当該ドメイン名についての権利または正当な利益を有していると認めることができるとしている。登録者が本件ドメイン名により開設したサイトの上述のような使用や、登録者が「(4)本件に関する登録者の意見」のオ)において主張しているメールアドレスとしての使用は、消費者の誤認を惹起して利得を得る意図や申立人の商標等の価値を毀損する意図があるとは認められず、むしろ公正な使用と解すべきである。

争点2:(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

ア)申立人は、登録者が本件ドメイン名を「ウェブ上で実質的には使用しておらず、現実に本件ドメイン名を利用した事業も行っていない」とし、このような不使用につき登録者の事情、状況等を判断して不正の目的を認めた先例(甲第24号証および第25号証)があると主張する。これに対して登録者は、メールアドレスとして使用していると反論している。

申立人が引用するJP2001-0002事件裁定においては、当該事件のドメイン名を入力してもそのドメイン名を持つコンピュータにアクセスできないと認定されており、当該ドメイン名についてのネームサーバ情報を登録したにすぎないとされている。またJP2006-0008事件裁定でも、申立人の主張によればその事件のドメイン名を入力してもそのドメイン名を持つコンピュータにアクセスできないと主張され、登録者からは答弁書が提出されていなかったという事件であり、この点で、ドメイン名を用いたウェブページが開設され、またメールアドレスとしての使用を登録者が主張している本件とは事案を異にする。

なお、申立人指摘の先例においても、登録したドメイン名の不使用の事実から直ちに不正の目的があることが認められるわけではなく、不使用であってもその他の事情から不正の目的での登録または使用であると認定できるというにすぎない。従って、いずれにしても、不正の目的を推認させる事情が立証される必要がある。

イ)申立人は、不正の目的を推認させる事情として、(a)Firefox 0.8の技術プレビュー版をリリースした直後に登録者による本件ドメイン名の登録がなされたこと、(b)登録者がドメイン名を使用しないのに登録更新したこと、(c)ウェブブラウザFirefoxのシェアと認知度が高まったこと、(d)登録者に本件ドメイン名の移転を依頼するメールを送ったところ話し合いたいとの返信があったことから、具体的な条件により移転に応じる意図があったことを主張している。これに対して登録者は、(a)の事実について争うようであるが、(a)は甲第1号証および甲第9号証の1、同2の日時により認めることができる。また(b)については、本件ドメイン名を使用していると反論しており、(c)についてはドメイン名移転の理由にならないと反論する。(d)については、メールのやりとりがあったことを認めるものの、それは断る意図であったとし、メールアドレスとしての保有の必要性を主張している。

ウ)申立人の主張のうち、(c)は、紛争処理方針第4条bに規定された不正の目的を認定すべき事情の(iv)商業上の利得を目的にして誤認混同を意図した使用との事実を認定する前提となるものだが、争点1に関して認定したように、登録者には(iv)掲記の目的や意図をもった本件ドメイン名使用の事実は認められない。

また(a)および(d)は、紛争処理方針第4条bの(i)ドメイン名取得金額を超える対価でドメイン名を販売すること等を主たる目的として登録したとの事情に結びつくものだが、申立人とのメールのやりとり、特に甲第31号証だけからは、高額の対価を要求する意図が登録者にあったと推認させるものではない。

(a)および(b)の事実から、紛争処理方針第4条bの(ii)妨害目的での登録を複数回行っているとの事情に結びつくことも考えられるが、積極的にそのような目的を認定するのには十分ではない。

紛争処理方針第4条bの(iii)の事情については、登録者が申立人の競業者とはいえないので、成り立たない。

その他、不正の目的での登録または使用を認定すべき事情は見あたらない。

エ)なお、本件ドメイン名紛争が申し立てられたことから、登録者は本件ドメイン名のもとで開設したブログ(http://firefox.jp/)において、本件ドメイン名紛争の経過と申立書および答弁書の公開を行うサイトとして運用している。その経緯は「公開→非公開→再公開」と題するエントリ(http://firefox.jp/archives/8#more-8)に記載されている。

このことが紛争処理方針第4条a(iii)の不正の目的での使用に該当するのではないかという問題もある。しかし、JPドメイン名紛争処理方針の下での手続は、その申立てがあった事実も裁定結果も、裁定書全文も公開されるので、少なくとも自らそのような制度の下に申立てをした申立人には、登録者が手続および書面を公開することにより特段の不利益があるとは認められない(申立書の著作権については別論とする)。また、そもそもこのような利用はウェブサイトの運用の問題であって、ドメイン名の使用の問題ではない。ウェブサイトの内容からドメイン名の不正な目的での使用と解しうるのは、例えば他人の表示と類似または同一のドメイン名を登録して、それによってアクセスされるウェブページでその他人を誹謗中傷したり、他人の信用を毀損する結果をもたらすような情報を掲載するといった場合が考えられる。本件登録者は申立人を誹謗中傷したり信用を毀損したりする内容の情報を掲載しているわけではないので、本件には当てはまらない。

オ)以上のように、登録者が当該ドメイン名を不正の目的で登録または使用していることを基礎づける事情は、本件の全主張立証によっても認められない。

6 結論

以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「firefox.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似しているが、登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないとは認められず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものとも認められないと裁定する。

よって、ドメイン名「firefox.jp」の登録を移転せよとの請求は棄却するものとし、主文のとおり裁定する。

2008年1月4日

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル

町村泰貴

単独パネリスト


別記 手続の経緯

(1)申立書受領日

2007年10月16日

(2)料金受領日

2007年10月16日 申立手数料の受領確認

(3)ドメイン名及び登録者の確認

2007年10月16日 JPRSへ照会

2007年10月16日 JPRSから登録情報の確認

確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること

(4)適式性

日本知的財産仲裁センターは、2007年10月17日に申立書が処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始日の通知 2007年10月19日

申立人へ通知(電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)

(6)登録者への通知日及び内容

1)2007年10月19日(電子メール及び配達証明郵便)

2)申立書及び証拠等一式

3)答弁書提出期限 2007年11月16日

(7)登録者への申立書送付に関する再送手続の確認

日本知的財産仲裁センターは、登録者の転居等の事情により、登録者に対する書類送付の確認ができなかったが、2007年11月2日に新たに判明した連絡先に一件書類を再送し、送付手続きを完了した。

(8)手続開始日 2007年11月2日

手続開始日の通知 2007年11月2日

申立人へ通知(電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)

(9)登録者への通知日及び内容

1)2007年11月2日(電子メール及び配達証明郵便)

2)申立書及び証拠等一式

3)答弁書提出期限 2007年12月3日

(10)答弁書の提出の有無及び提出日

登録者より2007年12月3日に答弁書が提出された。

(11)答弁書の方式審査

日本知的財産仲裁センターは、紛争処理方針のための手続規則に則って答弁書の方式審査を行い、登録者に対し、2007年12月3日に答弁不備通知書を送付した。登録者より2007年12月10日に答弁不備通知に対する回答書が提出された(電子メール)。

(12)申立人への答弁書の送付

2007年12月7日(電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)

(13)パネリストの選任 2007年12月10日

申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択

中立宣言書の受領日:2007年12月13日

パネリスト:町村 泰貴

(14)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知

2007年12月10日 JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール)

申立人及び登録者へ通知

(電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)

裁定予定日:2008年1月4日

(15)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し

2007年12月10日(電子メール及び配達証明郵送)

(16)パネルによる審理・裁定

2008年1月4日 審理終了、裁定

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